生成AIの現在地|2025年春・動画生成編
どこまで“つくる”を委ねられるのか|動画生成AIと創作の境界
2025年5月4日

はじめに
スマホを使った動画編集、ライブ配信といった"手軽に作れる映像"は、既に多くの人の手に届くものになりました。結果、YouTuberというジャンルが確立され、テレビ番組の一部はクリエイターエコノミーによって代替されています。
一方で、ドラマやアニメーションといった創作作品は、撮影や編集のスキル、演技や構成の設計力など、作り手にとって依然として高い壁が存在するジャンルです。この壁がYouTubeとNetflixを隔てる境目といってもいいのかもしれません。
動画生成AIが期待される役割は、動画という魅力的だが難易度の高い領域に変革をもたらしてくれる点でしょう。
動画生成の現地点
動画生成AIの現在地を整理すると、注目すべきポイントは大きく2つありそうです。
ひとつは、動きの破綻がかなり減ってきたこと。以前は不自然な破綻が頻繁に起きていましたが、最近はより滑らかで自然なモーションに近づいてきており、これは、動画生成技術そのものの基礎的な精度が上がってきたことを意味します。
もうひとつは、画像生成AIの進化です。現状では画像を元に動画化する手法が主流なので、一貫性のある画像を用意できるようになったChatGPT-4o(DALL-E)のアップデートが、実は動画生成においても大きな役割を果たしていると言えます。
破綻の減少

まずは「破綻の軽減」についてまとめます。たとえば、半年ほど前なら、アジア人であれば顔が徐々に欧米風に変化してしまったり、独自性のあるイラストの場合は大きく破綻するなどして、使い物になりませんでした。
最近では各ツールで改善がなされ、安定した出力がされるようになってきました。直近で大型のアップデートを発表した動画生成AIのメジャーツール、Runwayを取り上げてみます。
Runway Gen-4の発表と共に示されたサンプル動画の中には、独自色の強いスタイルによるアニメーションもありました。これまでであれば、Pixar風やジブリ風は比較的作りやすくても、こうした作風だと破綻が起こりやすく、挑戦するのは現実的ではありませんでした。
作品性を出せるクリエイターのためのツールへの志向
Runway は作品性を重視した志向であることにも注目したいと思います。Runwayが開催する映像コンテストAIFFには、審査員には映画監督や映像作家などプロが参加し、あくまで映像作品としての完成度・ストーリー性・独創性が重視されているように見受けられます。
aiff.runwayml.com
https://aiff.runwayml.com/
AIツールが社会的な評価を得ていくためには、単なる話題性や再現性ではなく、“作品としての完成度”や“創造性の高さ”が問われることが、今後ますます重要になると感じています。
たとえば、「PixarやジブリのパクリをAIでつくるものでしょ」といった偏見が残るかぎり、たとえ中身が面白くても、そのコンテンツが正当に評価されるのは難しいでしょう。
だからこそ、あえて大衆受けを狙うのではなく、作品性や独自性によって評価されるような先行事例が増えていくことも、AI表現の信頼を積み重ねる上では重要なプロセスなのではないかと私は考えています。
How Runway revolutionized film production with AI
amplifypartners.com
https://www.amplifypartners.com/case-studies-collection/how-runway-revolutionized-film-production-with-ai
技術的にできることと困難なポイント
ここからは、もう少しだけディテールにも簡単に触れておこうと思います。
主なツールと特徴
AIツールは数か月ごとにツールや機能のトレンドが変わるほど進化スピードが極端に速く、機能やノウハウを事細かに解説することは、ここでは避けます。一方で、ツールごとの傾向特色の違いも感じられるようになってきたこともあり、この点については少し触れておきたいと思います。
Runway | Building Real-World Intelligence
runwayml.com
https://runwayml.com/
先述したRunwayは映画や広告などのプロクリエイター向けを志向しているように見えますし、Pikaが重点を置く機能はバズ系のショート映像を作るのに向いている印象、KlingやViduはキャラものやアニメっぽい仕上がりに強い…といった具合に、強化される機能、重点ポイントもツールごとにバラつきが出てきたようにも感じています。
pika.art
https://pika.art/
klingai.com
https://www.klingai.com/global/
各ツールとも生成される動画の品質は日進月歩の「追いつけ追い越せ」合戦といった様相で、今後は、AIの性能機能だけではなく、出力の傾向・方向性やブランドイメージによってツール選定されるのかもしれません。
動画生成の主な機能

動画生成の制御のための様々な機能も増えてきました。
▶Text to Video:テキストの指示だけで動画を生成
▶Image to Video:静止画1枚をアップロードして動画に変換
▶Video to Video:既存の動画をスタイル変換
▶Reference to Video:背景、人物、小物など複数の画像を同時にアップロードすることで、要素を合成した動画を生成
【ほか生成補助ツール・設定】
開始/終了フレーム指定:動画の始まりと終わりの画像を指定してつなぐことができる
Motion Brush:映像内の特定の領域(例:人物の手や背景の煙)に対して、部分的な動きを与えるブラシツール
効果付与:映像に対して、特定の視覚効果(VFX)をワンクリックで追加
スワップ:映像に対して、人物や服の画像をアップロードして変更
リップシンク:セリフに合わせて人物の口を動かす
正直なところ、意図通りの制御は動画はかなり難しく、画像生成で制御をしてImage to Videoで動かす、というのが現状の主流ではあるかもしれません。
動画生成AIがまだ苦手としていること

▶長尺生成の壁
一般的なサービスとして利用できる多くのAI動画生成ツールは、いまだに数秒〜10秒程度の生成が限界です。尺が伸びると、動きが予測と違ったり途中で破綻しやすかったりと、生成時間がかかる割には問題も多く、使い勝手は良くありません。
▶意図した演出の難しさ
AI動画は一発生成の性質が強く、現実には何十回と生成を繰り返して最も意図に近いカットを拾うという、ある種の“ガチャ”に近い運用になりがちです。
▶映像編集
現在の動画生成AIは、基本的に「1カットずつを生成する」という思想にとどまっており、複数のショットを組み合わせて一本の動画に仕上げたり、カット割り、音楽との同期といった映像編集としての設計思想はありません。
論文やローカルPCレベルの動画生成性能が示す将来的な示唆
細かな破綻などの最後の詰めは、おそらく続けられ改善が進むのでしょう。このほか、以下のような動向も引き続き注目をしてみたいと思います。
長尺ロングカットの生成
最近では、1〜2分ほどの長尺動画を自動で生成できる研究も登場してきました。動きの自由さや演出の細かいコントロールにはまだ課題がありますが、見た目の一貫性を保ったまま、より長い映像を生成する試みが進んでいます。
今はまだ発展段階ですが、こうした長尺生成の研究が進むことで、将来的には「AIがまとまった映像作品を丸ごと作る」ようなことも現実味を帯びてきそうです。
ストーリー編集
複数のシーンをまたいで動画生成する研究はいくつかあるようです。道のりはまだ遠そうに見えるものの、いずれは、あり得る未来なのかもしれません。
Amazon Nova Reel 1.1: Featuring up to 2-minutes multi-shot videos | Amazon Web Services
aws.amazon.com
https://aws.amazon.com/jp/blogs/aws/amazon-nova-reel-1-1-featuring-up-to-2-minutes-multi-shot-videos/
動画編集は、「ここは淡々と見せよう」とか、「たくさんカット割ろう」とか、映像のルールに決まりはなく監督によって様々な解釈の仕方があります。全編AI映像が可能とすれば、新文化が生まれ得る大きな変革であり面白いとも思いつつ、しかし、ここばかりは人間の手であってほしいという気持ちもどこかであります。
動きの制御
動きの制御のアプローチも様々な試みがあり、将来的には、もっと意図通りに調整できるUXが確立されていきそうな感じはします。
Motion Prompting: Controlling Video Generation with Motion Trajectories
motion-prompting.github.io
https://motion-prompting.github.io/
映像をつくる作業がもう少し軽やかになるなら
著作権や倫理をめぐる問題、あるいはディープフェイクによる世論操作など、AIが映像制作にもたらす影響は決してポジティブな側面だけではありません。これらの課題は複雑で奥深いものが多いため、本記事では触れる程度にとどめ、別の記事で詳しく掘り下げていきたいと思います。
しかし、期待される側面もあることは事実であるはずです。映像制作の現場は依然として非常に高い専門性が求められ、一部の資本や産業に集中する傾向が続いています。長時間労働や自己犠牲的な働き方が当たり前の業界構造をAIがより健全で持続可能な労働環境へと改善できるのであれば、そこには価値があるでしょう。
また、短編のシリーズアニメや小規模なチームによる特撮、個人が制作するドラマなど、これまで予算やマンパワーの制約で現実的ではなかった表現が世に出るようになれば、それは単なる効率化を超えて、新しい文化や表現領域の拡張を意味します。
AIがもたらす課題は見過ごすことなく、一方で創造の多様性と持続可能な制作環境が共存する道を見つけることには意味があると考え、引き続き模索を続けていきたいと思います。